マンションの大規模修繕はなぜ進まない?「2つの老い」と修繕積立金不足の実態を解

築40年以上のマンションの4割近くが外壁の剥落や漏水などの問題を抱えています。マンションの大規模修繕は国交省のガイドラインで12~15年に一度が望ましいとされ、規模によっては数億円単位(一戸あたり100万円以上)に及ぶ一大イベントです。新築時の修繕積立金は一回目の大規模修繕を基準に設定されることが多いため、一回目で資金不足になることは少ないものの、二回目以降は建物の劣化が進んで修繕箇所が増える一方、住民の高齢化で収入が減り積立金の増額が難しくなるため、資金不足が起きやすくなります。この建物と住民の高齢化は「2つの老い」と呼ばれます。加えて、工事会社の人手不足による人件費上昇や物価高で修繕計画の見直しが必要なケースも増えています。

Q&A

Q1マンションの大規模修繕はどれくらいの頻度・費用で行われますか?

国交省のガイドラインでは外壁などの大規模修繕は12~15年に一度が望ましいとされています。費用はマンションの規模によっては数億円単位(一戸あたり100万円以上)になることもあります。

Q2マンションの「2つの老い」とは何ですか?

建物・設備の老朽化(外壁、給排水管、機械式駐車場、エレベーターなどの劣化)と、住民の高齢化の2つを指します。この2つが重なることで修繕費用の不足が起きやすくなります。

Q3なぜ二回目以降の大規模修繕で資金不足になりやすいのですか?

新築販売時の修繕積立金は一回目の大規模修繕費用をもとに算出されていることが多いためです。二回目以降は劣化が進んで修繕箇所が増える上、住民の高齢化・定年退職で収入が減り、積立金の増額に対応できないケースがあります。

Q4修繕積立金の不足にはどう対処すればよいですか?

耐久性の高い材料を使い、大規模修繕の周期を12年から18年程度に延ばす方法があります。ただし一回当たりの工事費用は上がるため、長期のメリットと目先の費用のどちらを取るかの判断が必要です。

Q5なぜマンションの工事は工事会社から敬遠されがちなのですか?

管理組合は理事会が月に一度程度しか開かれず意思決定が遅い上、議論が紛糾して工事が待たされることがあるためです。工法などの知識が乏しいケースもあり、管理組合を助言・サポートする専門家が必要とされています。

Q6マンションが災害で被害を受けた場合、費用は誰が負担しますか?

エントランスなどの共用部は管理組合の損害保険、専有部(個人宅)は住民個人の保険でカバーします。ただし修繕積立金は災害を想定していないことが多く、残高不足になるケースもあります。

最近話題の「マンションの大規模修繕が進まない」問題

「マンションの大規模修繕が進まない」というテレビや新聞での報道が増えています。本記事では株式会社さくら事務所にお話を伺います。同社は個人向けのホームインスペクション(第三者による住宅診断)やマンションの管理組合向けのコンサルティング事業を展開しているほか、NHKドラマ『正直不動産』の監修もしています。

大規模修繕工事はマンションの規模によっては数億円単位(一戸あたり100万円以上)になることもあるマンションの一大イベントです。同社はマンション管理組合に対し、大規模修繕の施工会社選定や、工事中の巡回施工チェックなどをサポートしています。

マンションの「2つの老い」──建物と住民の高齢化

国交省の調査では築40年以上経ったマンションの4割近くが外壁の剥落、漏水や雨漏りなどの問題を抱えています。

マンションの維持管理費は管理会社への業務委託費などに充当する管理費と、修繕を行うために積み立てる修繕積立金の2つに分かれます。国交省のガイドラインでは外壁などの大規模修繕は12~15年に一度行うことが望ましいとされており、2024年現在は、2008年ごろに建設されたマンションが一回目の大規模修繕を迎える時期です。それ以前のバブル期に建設されたマンションは二~三回目の大規模修繕を迎えていることになります。

さくら事務所によれば、新築販売時の修繕積立金の設定額は一回目の大規模修繕費用をもとに算出されていることが多いので、一回目の大規模修繕でお金が足りない事態にはなりにくいそうです。しかし、二回目以降になると建物や設備の劣化が進んで修繕箇所が増える上に、住民が高齢化・定年退職により収入が減っていることが多いため、修繕積立金の増額に対応できないことがあり、修繕費用の不足が起きやすくなります。

マンションは時間とともに外壁などの建築部分だけでなく、給排水管や機械式駐車場、エレベーターなどの設備系統も劣化していきます。この建物と住民の老いは「2つの老い」と言えるでしょう。

人件費の上昇と、意思決定が遅い管理組合の課題

工事会社は人手不足なので、人件費も上昇しています。新築時の修繕計画が昨今の物価高を反映していない場合は計画の見直しが必要です。

また、私が話を聞いた工事会社は「マンション関連の工事は管理組合の議論が紛糾して待たされることがあるので、本音では話のわかる企業相手の案件をやりたい」と言っていました。マンション管理組合は理事会が月に一度程度しか開催されないことが多いので、企業のように早く意思決定することは難しく、区分所有者で形成されている管理組合では、工法などに関する知識が乏しいケースもあります。そこで、管理組合に助言・サポートするさくら事務所のような専門家が必要とされるのです。

修繕積立金不足にどう対処するのか?

では、修繕積立金不足にどう対処するのか?

耐久性の高い材料を使うことで、大規模修繕の周期を12年から18年程度に延ばすことも可能です。しかし、耐久性の高い材料を使う工事内容を選択した場合、一回当たりの工事費用は上がります。

長期のメリットを取るか、目先の費用か。「老いる」マンションの管理組合も難しい問題を抱えています。

マンションと災害──保険と修繕積立金の落とし穴

マンションが水害などの被害を受けた際、エントランスなどの共用部は管理組合の加入する損害保険でカバーし、専有部(個人宅)は住民の加入する保険でカバーすることになります。

さくら事務所によれば、共用部の復旧工事は修繕積立金を流用できる規約になっているケースが多いですが、修繕積立金は災害を想定して積み立てていないことが多いため、災害があっても残高が足りない、となるケースがあるとのこと。

また、管理組合が加入している損害保険で個人賠償責任特約が付保されていない場合、住戸間で漏水事故があっても管理組合の保険ではカバーできないため、補修や補償を巡ってトラブルになることもあります。

出典

  • 高木健次著『建設ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング 2025年1月刊)より抜粋
  • https://www.amazon.co.jp/dp/4295410551