AIで建設業界はどのように変わっていく?事務職の淘汰と建築専門人材不足
2024年6月の有効求人倍率を見ると、建築土木測量技術者は5倍、専門系職業全体は1.75倍と人手不足である一方、一般事務従事者は0.31倍、アート系は0.18倍と仕事の奪い合いが起きています。さらに内閣府の資料では「建設土木作業員」はAIの影響を受けにくく、「施工管理」はAIのサポートで生産性が上がるとされています。アメリカでは既に事務職が減り建設・医療などの専門職が増加中です。建設業界の人件費は上昇を続け、ここ数年大企業のリストラも起きていません。AI時代に強いのは建設などの専門職であり、専門性のないホワイトカラーは厳しい生存競争に直面します。
Q&A
Q1AI時代でも人手不足が続くのはどんな職種ですか?
建築土木測量技術者(有効求人倍率5倍)や製造業・ITなどの専門系職業(同1.75倍)です。資格保有者や高い技術を持つ人は引く手あまたです。
Q2逆に仕事が足りていない職種は?
一般事務従事者(有効求人倍率0.31倍)やデザイナーなどのアート系(同0.18倍)です。事務系は2〜3社の面接を受けてやっと1社内定するイメージです。
Q3AIの影響を受けやすい職種・受けにくい職種は?
内閣府の資料では「一般事務員」などが影響を受けやすく、「建設土木作業員」「警察官」などは受けにくいとされています。「施工管理」「医師」「弁護士」「経営者」などはAIのサポートで生産性が上がるとされています。
Q4なぜ事務職の求人は少ないのですか?
デジタル化によって事務系の仕事自体が減り始めているためです。文系学科の増加により事務職を希望する人が多いことも、需給ミスマッチを拡大させています。
Q5アメリカではどんな変化が起きていますか?
既に「事務職が減って建設、医療などの専門職が増加する」現象が起きています。電気技師などブルーカラー職のカッコよさを発信するインフルエンサーが台頭し、資格が取れる専門系の学校が人気になっています。
Q6建設業界でも大企業のリストラは起きていますか?
建設業界は人手不足のため、ここ数年、大企業のリストラは起きていません。一方、ペーパーレス化が進む複合機・印刷業界などではリストラが進んでいます。
Q7企業に人気の学生はどんなタイプですか?
採用担当者へのヒアリングでは「東大生などの優秀層」「体育会系」「高専・工業高校などの専門系」の3タイプが人気で、中途半端な文系・非体育会系・無資格の大卒学生が余るとされています。
直視すべきはホワイトカラーの淘汰
「建設職人、物流関係などのエッセンシャルワーカー(社会生活を支える職種)が不足し、災害復旧が遅れる」といった経済雑誌の特集が最近組まれています。しかし、今、直視すべき現実はエッセンシャルワーカーではなく「事務職などのホワイトカラーの淘汰」です。大企業のリストラ(希望退職などによる人員整理)も増えていますので、誰もが「自分もリストラされ、エッセンシャルワーカーになるかもしれない未来」を考える必要があります。
建設系技術者は求人倍率5倍で引く手あまた
まず2024年6月の有効求人倍率を見てみます。有効求人倍率は「ハローワークにエントリーされる求人の数」を「働きたい人の数」で割り算して算出します。
・建築土木測量技術者……5倍
・製造業、ITなどの専門系職業全体……1.75倍
これはハローワークに行けば、建設系の技術者人材は5社からすぐに入社のオファーがあるということです。資格保有者や高い技術を持つ人は引く手あまたでしょう。
・一般事務従事者……0.31倍
・デザイナーなどのアート系……0.18倍
これはハローワークで転職活動をしても事務系はオファーが極めて少なく、2〜3社の面接を受けてやっと1社内定するという意味です。アート系はさらに有効求人倍率が低いです。
今の転職市場は「事務、アート系の仕事をやりたい人が余り、お金が大きく動く建設や工場、システム開発の現場で働く人が不足」しているのです。この背景として「高専、工業高校などの『理系』学科が減り、『文系』学科が増えた」ことも背景にあります。「文系学部」出身者の受け皿となってきた事務系の仕事がデジタル化によって減り始めたとも言えます。政府が「リスキリング」(学びなおし)を政策に掲げるのはこの「需要と供給のミスマッチ」解消のためです。
AIの影響を受けにくい建設職
ここまで見てきたデータは2024年時点の「今」の数字です。ただでさえ減る「事務職」の仕事ですが、ChatGPTなどのAIの台頭で今後さらに減っていきます。内閣府の資料では「一般事務員」などがAIの影響を受けやすく、「建設土木作業員」「警察官」などが影響を受けにくいとされています。「施工管理」「医師」「弁護士」「経営者」などはAIのサポートを受けて現状より生産性が上がる、とされています。
経済産業省の資料を見ると、アメリカでは既に「事務職が減って建設、医療などの専門職が増加する」現象が起きています。電気技師などのブルーカラー職のカッコよさを発信するインフルエンサーが台頭し、資格が取れる専門系の学校が人気になっているそうです。アメリカの場合、日本よりも大学の学費が値上がりしているため、より学生が学校選びにシビアになっているのです。
日本はアメリカと比較すると、事務職の減少幅がまだ小さいとされています。事務職の業務内容を日米で比較すると、日本はアメリカに比べ「分析・創造的業務」のシェアが低く、「定型・作業的業務」のシェアが高いとされています。「定型・作業的業務」は伝票入力や経費精算などですね。これらの「事務作業」は世界的にAIによって自動化を進める研究が進んでいます。
これからのAI社会で生き残れる事務員は「ITツールを使いこなし、総務、経理、営業サポートまでこなすスーパー事務員」に限られ、生存競争は激しくなります。
「脱ホワイトカラー」を象徴する工業高校・高専人気
この「脱ホワイトカラー」の社会変化を示すわかりやすい事例が工業高校や高専です。企業の新卒採用担当者や学校へのヒアリングでは「東大生などの優秀層、体育会系、高専・工業高校などの専門系、この3タイプの学生が企業に人気で、中途半端な文系・非体育会系・無資格大卒学生が余る」とのことでした。
若い方は建設系でなくてもよいので、何らかの専門性を早く身に付けることを意識してください。建設業界の人件費が上昇し、住宅価格は上がっていきますので、今後「専門性のないホワイトカラー」は家を買うのも困難になっていくと考えられます。
リストラが起きていない建設業界
他業界に目を向けてみると、大手複合機・印刷機メーカー、印刷会社のリストラが進んでいます。ペーパーレス化が進み、紙に関わる仕事が減っているためです。
大企業のリストラが進むのはなぜでしょうか? 賃上げが進んだことで1人当たりの人件費が上がっています。会社として人件費総額を抑制するためには、リストラで人数を減らすほかないのです。なお、建設業界は人手不足なので、ここ数年、大企業のリストラは起きていません。
出典
- 高木健次著『建設ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング 2025年1月刊)より抜粋
- https://www.amazon.co.jp/dp/4295410551