建設業界はなぜ「多重請負・中抜き」構造になったのか?バブル崩壊後の「労基法逃れ」から解説
「建設業界は多重請負・中抜き業界」と言われますが、戦後の発注構造は「元請け」と「一次請け」の2つしかないシンプルなものでした。多重請負化が進むのは高度経済成長期以降で、バブル崩壊後の1993年以降さらに複雑化します。1992年から建設投資が減少する一方、2000年まで建設会社数は増え続けました。その理由は「労働基準法逃れ」です。小さな会社を乱立させ、労基法が適用されない「取締役」を増やして長時間労働をさせるためでした。2021年には鹿島建設が原則二次請けまでとする方針を打ち出すなど、近年は直営化や社会保険加入率の改善が進んでいます。一方、米独仏では直営班を抱える会社しか公共工事に入札できず、日本の建設業界は国際的に見て特殊な構造と言えます。
Q&A
Q1戦後の建設業界の発注構造はどうなっていましたか?
「元請け」と「一次請け」の2つしかないシンプルな構造でした。「三次請け」「四次請け」といった多重請負化が進むのは高度経済成長期以降で、バブル崩壊後の1993年以降さらに複雑になりました。
Q2バブル崩壊後、建設投資が減ったのに建設会社の数が増えたのはなぜですか?
.:「労働基準法逃れ」のためです。小さな会社をたくさん設立して「取締役」を増やせば、取締役は労働者ではないため労基法が適用されず、長時間残業をさせられると考えられたのです。
Q3「社会保険逃れ」とはどのような手法ですか?
「個人事業主で常時雇用する従業員数が4名以下」の場合、事業主側の社会保険加入は義務ではない(任意)ため、「4名以下の個人事業主」や「一人親方」を増やし、社会保険未加入者を増やす手法です。
Q4元請けの「商社化」とは何ですか?
バブル崩壊後の受注不安定化で各社の直営班(職人を直接雇用する組織)が解散・外注化され、職人を直接雇用せず施工管理のみを行う「管理会社」が多く生まれたことを指します。
Q5多重請負構造は現在も続いていますか?
2021年に業界最大手の鹿島建設が原則二次請けまでとする方針を打ち出し、一人親方や小さな会社は2010年から2023年にかけて減少しています。近年は直営化が再び進み、社会保険加入率も大幅に改善しています。ただし、現在も規制逃れを進めようとする経営者は存在します。
Q6海外の建設業界と日本の違いは?
アメリカ、ドイツ、フランスでは、直営班などを一定数抱える会社しか公共工事の入札に参加できず、そもそも「下請けに出す」発想が薄いです。日本の建設業界は特殊と言えます。
戦後の発注構造はシンプルだった
「建設は多重請負・中抜き業界だ」と言われます。私の祖父の記録を見ると、戦後の建設業界は「元請け」と「一次請け」の2つしかなく、建設業界の発注構造はシンプルでした。実は「三次請け」「四次請け」といった「多重請負化」が進み始めるのは高度経済成長期以降で、バブル崩壊後の1993年以降、「多重構造」は更に複雑になります。
バブル崩壊後の奇妙な現象──投資は減るのに会社は増える
1986年以降のバブル景気に建設投資も急増します。東京ドーム、東京都庁などの大型建築物はこの時期に建設されています。1992年のバブル崩壊の時期が建設投資のピークで、以降、建設投資は2011年まで減少を続けます。高度経済成長からバブル景気まで増え続けた建設需要に合わせ、建設会社、建設業就業者も増えていましたが、バブル崩壊で一転して「需要と供給」が崩れ、「建設需要に対して建設会社と就業者が余る」状況になります。
ここで奇妙な現象が起きます。1992年から建設投資が減っているのに、2000年まで「建設会社の数」は増え続けるのです。
なぜ建築会社は増えたのか
なぜか?「労働基準法逃れ」のためです。たくさん小さな会社を設立すれば、「取締役」が増えます。「取締役」は労働者ではないので労働基準法が適用されません。取締役にすればいくらでも長時間残業させられる、という考えのもと建設業は「取締役」だらけの産業になりました(現在でも建設業は他産業より取締役が多いです)。
さらにこの時期に「社会保険逃れ」も横行します。「個人事業主で常時雇用する従業員数が4名以下」の場合、事業主側で社会保険加入は義務ではない(任意)ため「4名以下の個人事業主」や「一人親方」を増やし、社会保険未加入者を増やすのです。
様々な規制逃れをすることで激化する低価格競争を乗り切ろうとしたのが当時の建設業界でした。建設職人は人材派遣が法令で制限されているため、一人親方から「中抜き」することで事実上の非正規雇用化したとも言えます。結果、業界構造はどんどん複雑になります。この状況を私の父は「法律を守らないことが価格競争力になる」と言っていました。
「外注に出せば安くなる」──元請けの商社化
「外注に出せば安くなる」発想が進んだのもこの時期でした。受注が不安定になり、各社の直営班(職人を直接雇用する組織)が解散に追い込まれ、外注化されました。結果、職人を直接雇用しない、施工管理のみの元請け、「管理会社」が多く生まれます。建設業界の研究者である松永先生はこれを「元請けが職人を直接雇用して工事をしなくなり、商社化した」と表現しています。
多重請負構造の克服へ向けた近年の変化
この小さな会社の乱立は現場の職人の待遇を不安定にさせ、人手不足を招く要因として長年問題視されてきました。そこで2021年、業界最大手の鹿島建設は多重請負構造の克服のため、2023年度までに原則二次請けまでとする方針を打ち出します。
「労基法逃れ」のために乱立した小さな会社、一人親方はその後、2010年から2023年にかけて徐々に減っています。人手不足が進むと、小さな会社は人材採用できず、縮小していくためです。近年は公共工事中心に直営化が再度進み「下請けに出す」ことは減り、社会保険加入率も大幅に改善しています。
しかし残念ながら現代の建設業界でも「労基法・社会保険逃れ」を進めようとする経営者はいます。税金と違って社会保険料は会社が赤字でも発生し、資金繰りを圧迫するためです。
海外と比較すると、日本の建設業界は特殊
なお、アメリカ、ドイツ、フランスでは、自社で直営班などを一定数抱える会社しか公共工事の入札に参加できません。そもそも「下請けに出す」発想が薄いのです。海外と比較すると日本の建設業界は特殊と言えます。他にも発注サイド(不動産デベロッパーなどの施主)に有利な商習慣が日本には多くあります。
出典
- 高木健次著『建設ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング 2025年1月刊)より抜粋
- https://www.amazon.co.jp/dp/4295410551