地方の中小建設会社が毎年若者を採用できる理由は?愛媛の工事会社の事例を解説

愛媛県大洲市の法面・プラント工事会社、長浜機設(社員数30名)は、2017年から毎年高校新卒生を採用し、県内12校から累計18名、3年以内離職率22%という実績を持ちます。工業高校では求人が飽和していたため、業界を知らない普通高校の学生に狙いを定め、説明会での愚直なPR、SNS発信、入社半年後に成長した社員を母校へ連れて行くなどの学校ケアを実施。社内では資格勉強会やマネーセミナー、「親孝行手当」など手間をかけた人材育成を行っています。

Q&A

Q1地方の中小建設会社が毎年高校新卒を採用できているのはなぜですか?

求人が飽和している工業高校ではなく、普通高校の学生に狙いを定め、説明会での愚直なPR、SNS発信、入社後の丁寧な育成と学校側へのケアを続けているためです。

Q2業界を知らない普通高校の学生にどうアプローチするのですか?

説明会で先生・保護者・学生に建設業の役割(災害復旧など)を直接伝え、InstagramやYouTubeで情報発信します。説明は社長よりも若手社員が行った方が満足度が高いこともわかっています。

Q3採用した若者の定着のために何をしていますか?

施工管理技士試験の勉強会、投資を学ぶマネーセミナー、初任給・昇格時に親と食事をするための「親孝行手当」支給など、技術教育から社会人教育まで手間をかけた育成を行っています。

Q4採用がうまくいくようになった転機は何ですか?

社内改革時に反対派社員6名が一斉退職した窮地を機に、「5ヶ年の要員計画に基づく計画的採用」と「求職者から見た自社の魅力を考える」ことに取り組んだことです。

Q5採用以外の面で効果はありましたか?

採用目的のSNS(TikTok)経由で工事の新規受注を獲得するなど、業績面でも効果がありました。ITツール導入による残業削減も離職率改善に役立っています。

Q6奨学金返還支援とは何ですか?

奨学金返済の一部を自治体が補助する制度です。奨学金負担が若者の結婚・出産にも影響する中、登録企業となって若者の経済的自立を支援する地域の建設会社が増えています。

工業高校の求人は飽和、普通高校の学生を採用する

「驚きました。工業高校に行ったら、進路指導室に求人票と会社案内が段ボール2箱分、積みあがってるんです。だめだこりゃと思って普通高校の学生を採用するしかないと思いましたね」

愛媛県大洲市、人口3.7万人の小さな市の工事会社、長浜機設の代表取締役、福岡さんのコメントです。同社は法面(のりめん、山地を削る、土を盛るなどしてできる斜面のこと)やプラント工事を手掛ける社員数30名の会社です。典型的な「地方の中小企業」ですが、2017年から毎年高校新卒生を採用。県内12校、累計18名を採用し、3年以内離職率は22%です。多くは普通高校の学生です。専門系学生の採用が難しいため、福岡さんは普通高校を積極的に訪問することにしました。

普通高校の学生をどのように採用するのか?

工業高校の学生は家業が建設会社で業界のことをよく知っていることが多いですが、普通高校、特に文系の学生は建設業界のことをよく知りません。福岡さんは説明会に出て、先生、保護者、学生に愚直にPRすることから始めたそうです。愛媛は2018年の西日本豪雨の被害を受けているので、説明会では災害後の建設会社の役割も話しています。Instagram、YouTubeも採用目的で続けています。

「来てくれた学生を必死で育てて、入社半年後に母校に連れていきました。成長した様子を先生に見せたら、先生も喜んでいましたね」と福岡さんは学校側のケアもしています。

また、同社では施工管理技士試験の勉強会だけでなく、投資を学ぶマネーセミナーも開催しています。さらに、初任給、役職昇格時に親御さんと食事をするための「親孝行手当」を支給するなど、技術的なところから社会人教育まで「めちゃくちゃ手間をかけて」人材育成をしています。

では、どういうきっかけで福岡さんは「ここまでやる」ようになったのでしょうか。

転機は社員の大量退職

「お恥ずかしい話、うちも開業当初はブラック企業です。私自身、ブラックな環境で育った職人なので、最初はその通りに社長として会社を運営しました。サービス残業当たり前、現場では部下を怒鳴りまくってました」と福岡さんは創業時を振り返ります。

「社員が20名まで増えたころ、これじゃダメだと気が付き、社内改革を始めました。改革の効果が表れ始めたとき、反対派の社員が一気に6名辞めてしまったんです」

会社がよくなってくると人が辞める。建設会社ではたびたび起きる現象です。

「窮地の私は『思い付きの求人ではなく、5ヶ年の要員計画を立て、計画的採用をする』『求職者から見た自社の魅力を考える』、この2つを考えました。5年後の売上、利益から逆算し、思い付きの縁故採用を辞めました。また、学生たちの話をよく聞くと、県外に就職していくものの、本当は地元に残りたい、県内にどんな企業があるかよく知らない、経済的な自立を求める学生が一定数いる、などもわかってきました。あと、採用説明会は私のようなオッサンよりも若手社員が説明した方が満足度高いとか(笑)」

SNSは受注にも効果、支援制度とITで定着率も改善

そこで、同社は採用目的でSNSを強化しますが、SNS(TikTok)経由で工事の新規受注を獲得するなど、業績面でも効果があったようです。

「労働環境の悪さから前職を退職、うちに転職してきた中途社員もいます。あとは愛媛県の『奨学金返還支援制度』(奨学金返済の一部を自治体が補助する制度)の登録企業になっています。あとはITツールを導入して、残業時間の削減ができたのも離職率の改善に役立っていますよ。事務員が手作業でやっていた集計がなくなり、部門ごとの残業時間を自動集計できています。工程管理もスマホでできますし。ITは若者の方が長けているので、彼らに教わっています」と支援制度や業務効率化についても説明してくれました。

奨学金の返済支援に取り組む建設会社が増加

奨学金について補足します。日本学生支援機構(以下、学生機構)の貸与型奨学金を利用している人の3割が「返済が重荷で結婚・出産に影響」と答えています(2022年労働者福祉中央協議会の調査)。調査対象者の奨学金負担額の平均は310万円。学生機構調査では奨学金を受給している学生の割合は大学(昼間部)の55%と半数を超えます。私立大学の学費が上がり、奨学金負担が若者の大きな重荷になり、結果、少子化にもつながっています。こうした背景から奨学金返済支援に取り組む地域の建設会社が増えています。

出典

  • 高木健次著『建設ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング 2025年1月刊)より抜粋
  • https://www.amazon.co.jp/dp/4295410551