エネルギーを扱う商社はどんな仕事をしている? 主要10社の強みと次世代エネルギー企業を紹介
エネルギーを扱う商社の仕事は、燃料の販売にとどまりません。石油・天然ガスの開発やLNGの調達・輸送、発電、電力小売まで関わり、水素やアンモニア、SAF、バイオメタンなどにも事業を広げています。本記事では、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事などの総合商社から、暮らしや空港を支える専門商社まで、10社の仕事と強みを紹介します。あわせて、ペロブスカイト太陽電池のエネコートテクノロジーズ、核融合のHelical Fusion、アンモニア製造のつばめBHBも取り上げます。同じエネルギー分野でも、各社がどこに関わり、どの技術の事業化を目指しているのかを見ていきます。
Q&A
Q1エネルギーを扱う商社は、燃料を売る以外に何をしていますか?
資源の開発、調達、輸送、加工、発電、販売などを手がけています。再生可能エネルギーや水素、アンモニア、SAFなど、新しいエネルギーの事業化にも取り組んでいます。
Q2LNGや電力事業を手がける商社には、どこがありますか?
三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、丸紅、住友商事などがあります。三菱商事はLNGの開発から輸送・販売まで、丸紅は発電や電力小売などにも幅広く関わっています。
Q3生活や交通に身近なエネルギー専門商社には、どこがありますか?
家庭や企業に石油製品・LPガス・電力などを届ける伊藤忠エネクス、水素の製造・輸送・供給・利用に関わる岩谷産業、航空燃料の供給に強みを持つ三愛オブリなどがあります。
Q4次世代エネルギーに取り組む企業には、どこがありますか?
本記事では、ペロブスカイト太陽電池を開発するエネコートテクノロジーズ、核融合による実用発電を目指すHelical Fusion、低温・低圧でアンモニアを製造する技術を開発するつばめBHBを紹介します。
話題のドラマ『VIVANT』の主人公、乃木憂助は、丸菱商事エネルギー開発2課の課長です。
目立たない社員を装っている乃木ですが、じつは商社のエネルギー開発事業は、世界を舞台に資源を動かす花形ビジネスの一つ。海外を飛び回る仕事でも、周囲からそれほど不思議に思われないのは、それだけ大きなビジネスを担っているからなのかもしれません。
ドラマに登場した「フローライト(蛍石)」も、資源ビジネスのスケールを感じさせる存在でした。フローライトは宝石として知られていますが、工業分野でも重要な鉱物です。そこからつくられるフッ化水素などは、半導体の製造工程にも使われています。
では、現実の商社は、どんなエネルギーや資源を扱っているのでしょうか?
石油や天然ガス、LNG(液化天然ガス)から、再生可能エネルギー、水素、アンモニア、SAF(Sustainable Aviation Fuel/持続可能な航空燃料)まで、商社が扱うエネルギーは多岐にわたります。資源を探し、調達し、運び、加工し、発電し、販売することに加え、新しいエネルギーを事業にするのも商社の仕事です。
ここでは、エネルギーを動かす商社10社を見ていきましょう。
エネルギーを動かす商社10社
1.三菱商事
三菱商事は、原油・天然ガスなどの資源開発から、LNGの液化、輸送、販売、発電、再生可能エネルギーまで幅広く手がけています。LNGでは世界各地の13プロジェクトに参画。天然ガスを開発して終わりではなく、LNGとして世界に届けるところまで関わっています。
2.三井物産
三井物産は、石油・天然ガス・LNGなどの資源開発から、輸入・トレーディング、国内販売まで、エネルギーの上流から下流まで幅広く展開しています。水素・アンモニア、SAF、バイオ燃料など、次世代エネルギーにも事業を広げています。
3.伊藤忠商事
伊藤忠商事は、原油、石油製品、液化石油ガス、LNG、天然ガスに加え、再生可能燃料や水素なども扱っています。太陽光・バイオマス発電、電力取引、蓄電池などにも事業を広げており、エネルギーを「つくる・ためる・届ける」領域までカバーしています。グループには、エネルギー専門商社の伊藤忠エネクスもあります。
4.丸紅
丸紅は、LNGや石油・ガスなどの資源ビジネスに加え、発電、電力小売、再生可能エネルギーなどを幅広く展開しています。太陽光発電などの再エネに加え、蓄電池や分散型電源などにも取り組んでいます。燃料を調達して売るだけでなく、電気をつくり、届け、効率よく使うところまで関わっています。
5.住友商事
住友商事は、LNG、石油、電力などの従来型エネルギーに加え、水素・アンモニア、蓄電池、再生可能エネルギーなどに力を入れています。さらに、メタネーションやCCS、エネルギーマネジメントなどにも取り組んでいます。「いま使われているエネルギー」だけでなく、その先のエネルギーにも目を向けています。
6.豊田通商
豊田通商は、トヨタグループの商社として、自動車産業とのつながりを生かしながらエネルギー事業を展開しています。再生可能エネルギー、水素、蓄電池などに取り組み、チュニジアでは100MWの太陽光発電所を完成。2026年にはRE100にも加盟し、2040年までに事業活動で使う電力を100%実質再生可能エネルギーにする目標を掲げています。
7.双日
双日は、石油・ガスや電力だけでなく、再生可能エネルギーやバイオメタンなど新しいエネルギーにも取り組んでいます。インドでは、稲わらなどの農業廃棄物からバイオメタンをつくる事業を展開。2027年度までに30カ所、年間16万トンの生産・販売を目指しています。「捨てるもの」からエネルギーをつくる。そんな新しい発想も商社ビジネスになっています。
8.伊藤忠エネクス
伊藤忠エネクスは、石油製品、LPガス、電力、熱、モビリティなど、私たちの暮らしとエネルギーの接点が見えてくる会社です。LPガス・都市ガスは約150万世帯に供給。全国約1,500カ所のカーライフ・ステーションも展開しており、エネルギーを家庭や企業に「届ける」仕事が身近に見えてきます。
9.岩谷産業
岩谷産業は、LPガスや産業ガスを基盤に、水素事業にも長年取り組んできた会社です。水素ステーションは2026年4月時点で国内52カ所、米国10カ所。日本だけでなく海外にも水素インフラを広げています。さらに、水素の製造・輸送・供給から利用まで、サプライチェーン全体に関わっています。
10.三愛オブリ
三愛オブリは、石油製品、LPガス、化学品などを扱うエネルギー企業です。意外に感じるかもしれませんが、航空燃料の供給にも強みがあります。1952年に羽田空港で航空機への給油事業を開始。現在は、航空業界の脱炭素化に向けてSAFにも取り組んでいます。私たちが飛行機に乗るとき、その「燃料を届ける」仕事もエネルギービジネスの一つなのです。
エネルギー業界は、もう「石油と電力」だけじゃない
ここまで10社を見てきましたが、石油や天然ガスを開発する会社。LNGを世界から調達して届ける会社。発電や電力小売を手がける会社。水素ステーションをつくる会社。農業廃棄物からバイオメタンをつくる会社。航空機に燃料を届ける会社。同じ「エネルギー」でも、関わり方はさまざまです。
そして、もう一つ見逃せないのが、これからのエネルギーをつくろうとしている企業です。
次世代エネルギーに挑む企業
エネルギー業界を調べていくと、大手商社だけでなく、これまであまり知らなかった企業にも出会います。
エネコートテクノロジーズ
「太陽電池」と聞くと、屋根やメガソーラーを思い浮かべるでしょう。京都大学発のスタートアップ、エネコートテクノロジーズが開発しているのが、ペロブスカイト太陽電池です。薄く、軽く、柔軟にできるのが特徴で、屋根だけでなく、窓や壁、車などへの応用が期待されています。
さらに注目したいのが、室内のような弱い光でも発電できること。IoT機器などの小さな電力を必要とする機器への活用が期待されています。2018年設立で、2026年7月時点の従業員数は116人。太陽光発電の「場所」を変える可能性を持つ企業です。
Helical Fusion
太陽がエネルギーを生み出している仕組みを、地上で再現しようとするのが核融合です。Helical Fusionは、核融合による実用発電を目指すスタートアップ。2030年代の定常・正味発電を目標に、実証装置「Helix HARUKA」の開発・建設を進めています。
さらに、その先の装置では、1年以上の連続運転、80%超の稼働率を目標に掲げています。実現すれば、エネルギーのつくり方そのものを変える可能性があります。
つばめBHB
アンモニアは肥料の原料として知られていますが、将来は水素を運ぶ「水素キャリア」や燃料としての利用も期待されています。つばめBHBは、独自の触媒技術を使い、従来よりも低温・低圧でアンモニアをつくる技術を開発しています。
新潟県柏崎市では、年間500トンの生産能力を持つ商用初号機を納入。必要な場所の近くでアンモニアをつくる「オンサイト生産」を実現し、今後は年産5000トンモデルの展開も予定しています。
「次のエネルギー」を探す仕事も始まっている
石油、天然ガス、LNG、電力。そこから、再生可能エネルギー、水素、アンモニア、SAF、バイオメタンへ。さらに、ペロブスカイト太陽電池や核融合といった、これまでとは違う技術も実用化に向けて動き始めています。
エネルギー業界は、いまあるエネルギーを「売る」だけの業界ではありません。「これから、私たちは何からエネルギーをつくるのか」その答えを探しながら、新しい技術やビジネスを生み出していく業界でもあるのです。